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映画・ゲーム考察

TWIN MIRROR 紹介メモ

TWIN MIRROR (2020)は、LIFE IS STRANGE (2015) LIFE IS STRANGE 2 (2018-19)を開発したゲーム会社DON’T NODによって開発・発売された、マルチエンディングの選択分岐型ナラティブ・ゲームである。

 


LIFE IS STRANGE LIFE IS STRANGE 2、また本作と並行して開発・発売されたTELL ME WHY (2020)が、若者を主人公としたティーン性を打ち出している作品であるのに対し、本作は大人を主人公としたダークでシリアスなサスペンスドラマであり、LISやLIS2がゴールデンアワーのオレンジやセピアを、TMWがホワイトやグレーを基調としていたのに対して、TMは黒を作品の基調色とし、影や陰影を強調した映像作りがなされているが、これは主人公のメンタルヘルスに関わる問題を反映してのことでもある。

しかし作品の根本にある”Zen Moment”のコンセプトは変わらず、DON’T NOD開発作品の全てに共通する、アンビエンタルでフォトジェニックな、ダウナー系の気質を受け継いでいる。

 

高いドラマ性(ストーリー、人間関係の設定、心理描写)や、印象的なビジュアル、良質なサウンドトラックが追及された点にDON'T NODらしさがある。

 

DON'T NODの他作品が、ティーンやマイノリティ、女性を主役に据えることで、男性中心のアクションゲームとは異なる路線を模索してきたのに比較すると、中年男性を主人公とする本作は一見、男性を主役とする「伝統的」な作品にも思えるが、実際には他者との関係を模索しながら最良の選択を積み重ねる、人間関係の構築に主眼が置かれたゲームであることがわかる。したがって他者を一方的に打ちのめし、勝者や成功者を目指す、というような、「力」の追求をめざす従来型のサクセスストーリーとは全く異なる。

 

DON'T NODは、LIFE IS STRANGEのなかで「己と対立する他者の心理の奥底にある、家庭や社会・地域といった環境要因」へと想いを馳せることの重要性を強調し、単純な勧善懲悪の構造は採用しなかった。(ただし、物語の黒幕については、作中においては純粋悪と見做され、情状酌量の余地が与えられない傾向にある)これは主として、若者の目線に立って行われ、同世代の若者や、親・教師といった大人が「なぜそのような行動をするのか」という行動形成の問題を、家庭環境やその人物の経歴から解き明かすことで成される。最終的に、問題の原因は社会構造・経済構造や、究極的には生存・資源といった根本的な要因へと帰着するので、作品は「若者目線で見た、現代社会と、そこに生きる大人の抱える問題」という視座に立っていることがわかる。TELL ME WHYは、子供の目線と大人の目線の両方を有し、「大人を理解する」過程を描いているので、純粋に若者(ティーン)目線というわけではないけれども、大人であることが利己性と利他性の狭間における揺らぎであることを「嘘/建前と秘密」「情報の取捨選択」を通じて描いており、「大人」を相対化していることから、ある意味では若者目線を主人公/プレイヤーが残しながらゲーム内における判断をしていくものとされている。

それに比較すると、TWIN MIRRORはほとんど純粋に大人目線でプレイを進行してくゲーム性を有しているため、「若者目線」は排除されているように思える。けれども、主人公が物語を進めるきっかけになるのが「少女による告白」をどれほど信憑性の高いものとして受け取るか、であること、そして主人公自身も有する少年性(=冒険心)であり、それが超自我の表象であるsocial self(=社交性=大人)によって調整されているとことから見て、TWIN MIRRORも、ティーン的な衝動性によって駆動されながらも社会性(大人らしさ/配慮/気遣い)の観点が葛藤を発生させる物語であることがわかる。すなわち、若者(的)な目線を有している。

 

 


DON’T NODの過去作同様、3DグラフィックのTPS。シーンごとにオブジェクトにインタラクトしてヒントを集め、フラグを立てる点が共通している。

ムービーと、プレイヤーが操作できる場面とが交互に繰り返され、その都度「ジャーナル」の指示や、独白、「もう1人の自分(social self)」による誘導を参考にしてプレイヤーはキャラクターを操作する。

この”social self”(社交的なもう1人の自分)や、”Mind Palace”という仕組みが本作の最大の特徴であり、LISにおける時間の巻き戻し機能(rewinding)や、TMWにおける記憶の再現といった機能に相当する。

Mind Palaceについて具体的に説明すると、”現場”で過去に発生した事件の検証を行なったり(過去の再現)、これから何をすべきかという行動予測(未来の予測)を行う能力であり、比較検証に基づき、複数の組み合わせ・可能性の中から最善のもの・最も蓋然性の高いものを選び出す人間の内面的な能力(イメージ)を、インタラクティブなものとして視覚化・映像化したものである。

映画やドラマにおいて省略されがちな「検証」の過程を、プレイヤーの納得いくようじっくりと体験させるために提供されたものであり、「インタラクティブムービー」の可能性を最大限に追及したものだと言える。(映画やドラマなどのフィクションにおいて、もっとも論理的破綻が発生しやすく、また、視聴者(プレイヤー)の「動作主性」が最も損なわれやすい箇所を、丁寧に掘り下げたものと思われる)

 


Social selfは狂言回しの役割を持つが、主人公の人格における「超自我」の擬人化でもあり、主人公の内面的な葛藤をわかりやすく視覚化したり、彼のメンタルヘルスの問題の原因を探る手がかりとなる存在でもある。

なお、本作においては”analytical self”が”social self”と対を成す存在であり、主人公の行動力がもたらす他者との軋轢を調整する機能を持つ存在が”social self “であることがわかる。

 


エンディングは全部で4種類存在するが、プレイヤーがそれまでに行ってきた選択に基づき、ゲームに内蔵されたアルゴリズムに従って判定される。

 


最悪のエンディング/バッドエンディング/グッドエンディング/最良のエンディング