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映画・ゲーム考察

映画『PERFECT DAYS』感想の要約

主人公は「すごいもの」を見せようとしないし、映画も観客に「すごいもの」を提示しようとしていない序盤〜前半の導入部分において、公衆トイレの景観・美観と日本製便器の機能性は露骨に「すごいもの」として提示されているせいで、主人公の価値観と映画の価値観が一致している前半部分における唯一の違和感となる。

 

前半部で周期的に繰り返される主人公の規則正しい生活と、わずかな異常(アノマリー)。主人公の魂はほぼ「凪(なぎ)」の状態を保ちながら平穏で居続けるが、中盤から終盤へと向かって順番に石が投じられると、広がった波紋は大きなうねりとなって主人公/観客の心を大きく揺らがせる。

 

他者とのささやかな接点であり、彼の教養と文化人気質を示すアナログ趣味を若者に肯定され、「すごいもの」を見せようとしない平穏/平坦な日々を娘同然の女に承認されることによって、彼のゆらぎは欲の芽を吹き、性愛の対象であろうとも皆と平等に共有していた女性が奪われることによって、一気に刈り取られる。

 

かつて成功を求められたであろう、彼の生い立ち・過去の匂わせも相まって、凪の日々にあってなお彼が「すごいもの」であろうとしないための微妙なゆらぎの発生が感じ取られるのだ。

 

彼の緘黙気質は、他者との接点において大きな揺らぎを抑え込むライフハックであろう

 

【追記:1/17】この映画の難しいところは「主人公が、心の波の変動のない穏やかな生活を、積極的な理由から勝ち得たのか、それとも消極的な理由からそこへ追いやられたのか」ということだ。