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映画・ゲーム考察

ゲーム "The Awesome Adventures of Captain Spirit" (2018)

The Awesome Adventures of Captain Spirit (2018)は、DON'T NOD社より、LIFE IS STRANGE 2 (2018-19)の発売に先駆けて無料で発売されたポイント&クリック形式の3人称視点RPGである。

LIFE IS STRANGE 2 (以下「LIS2」)に先駆けて発表され、無料でプレイ可能であることから、あたかも本編(LIS2)のデモ版や無料体験版であるかのような印象を与えるが、本作の主人公は、LIS2の主人公であるショーンとダニエルの兄弟とは異なる。

 

The Awesome Adventures of Captain Spirit (以下「CS」) 主人公はクリスという白人の少年であり、LIS2の主人公兄弟はメキシコ系(厳密には父がメキシコ人移民、母が白人)であることから、CSの主人公が白人の少年であるからと期待してLIS2の発表を待ち望んだ、白人優位主義的なファンの性格を炙り出すような意図が、開発陣・経営陣にはあったのではないかとも推察される。

実際LIS2は、メキシコ系の主人公兄弟が、白人による差別と偏見から事件に巻き込まれてしまったことが物語の発端となっている。物語を進めていくなかでも白人による差別的言動に何度も直面する。

 

なお、LIFE  IS STRANGE(2015)が少女を主人公にしていたのと比較すると、LIS2、およびその事前版であるCSは、少年らしいテイストとなっている。

 

CSの主人公クリスは、ヒーローに憧れ、想像力の豊かな、どこにでもいる普通の少年であるが、一人親家庭であり、シングルファザーの父親はアルコール依存症を抱えている。

物語を進める(=オブジェクトにインタラクトしていく)うちに、クリスの母親はひき逃げによる自動車事故で亡くなったことが判明し、犯人が見つからないやりきれなさから父親はアルコールに溺れ、職を転々としていることが明らかとなる。

プレイヤーに課されたタスクはあくまでクリスの「やることリスト(=ごっこ遊び)」を行うことであるが、オブジェクトにインタラクトすることによってクリスは家事をすべて1人で行うことが可能であり、作品のテーマが「ヤングケアラー」(アダルトチルドレン)であることがわかる。

 

なお本作には会話の選択肢が存在するものの、DON'T NOD作品、そしてLIFE IS STRANGE IPの特徴である「マルチエンディング(エンディング分岐)」は採用されていない。

 

クリスの父親は、「アルコール依存症に関連したトラブルで何度も仕事を首になっており、そのことが彼の社会的信用を損なわせ、いっそう就職を困難にするのでアルコール依存症を強める」という負のループに陥っているが、新しい女性との出会いもあり、クリスにとって母方の祖父母からの支援の申し出もあるため、この物語の親子には希望の光が残されている。(アルコール断酒会のチラシも、父親の部屋で発見されている)

 

このような「家族の死と子供への精神的な影響」という構図はまさにLIFE IS STRANGEやその前日譚 LIFE IS STRANGE : Before the Storm (2017)のなか描かれたものであり、重要な登場人物であるクロエは父親の死をきっかけに非行へ走り、周囲からのサポートも得られないまま学業優秀な道を捨て、学校を退学になっている。

ヤングケアラーであるCSの主人公クリスは、クロエと同じような道を辿るかどうかの分かれ目にあると言えるだろう。

 

家族の死が、子供を非行に走らせるなどの将来への深刻な影響を与える理由として、LISやBtSにおけるクロエについては心理的な影響は指摘されているものの、因果関係の具体性や明瞭さに欠ける。その点と比較すると、CSにおいては「ヤングケアラー」という問題に当てはめたことによって、物語内における人物描写の解像度が高まるのみならず、現実に存在する問題に対してプレイヤーが目を向けるきっかけを与えるであろうことが期待される。